Agent Assistメッセージングウィジェット
AIによる支援で、問い合わせ対応の時間を短縮した
項目 | 内容 |
|---|---|
企業 | Bupa Australia & New Zealand |
所在地 | オーストラリア、メルボルン |
対応範囲 | ユーザーリサーチ、UXデザイン、プロトタイピング、ユーザーテスト、最終UI、デザインシステム |
役割 | Senior UX Designer |
成果物 | ユーザーリサーチ報告書、プロトタイプ、ユーザーテスト報告書、最終UI、デザインシステム(UIキット) |
領域 | UXデザイン、UIデザイン |
期間 | 2019年から2020年 |

Bupaのカスタマーサービス部門は、2018年からContact Centre of the Futureプログラムを進めていました。コンサルタント(応対担当者)が大量の顧客対応をどのように処理するかを再構築する、複数年にわたる取り組みです。音声チームはすでに受電向けにNLU(自然言語理解)を導入し、応対品質の向上と平均処理時間の短縮を実現していました。次の対象はメッセージングでした。
2019年には、非同期メッセージングのチームがウェブチャット基盤で複数の顧客からの問い合わせを同時に処理していました。WhatsApp、Apple Business Chat、ウェブチャットとチャネルをまたいで件数が増える中、部門は、コンサルタントがより速く、正確に、一貫した対応ができるようAI機能の導入を決めました。Agent Assistメッセージングウィジェットは、その課題に対するデザインの回答です。
課題
問題の核心は業務効率にありましたが、その影響を受けるのは人でした。コンサルタントは複数の会話を同時に進めながら、いくつもの基盤を横断して正しい情報を探し、見つけたナレッジベースの記事をメッセージ向けの文章に手作業で書き直していました。時間がかかり、同じ作業の繰り返しで、件数が増えるほど回らなくなる状態でした。
このワークフローにAIを導入すること自体にも、リスクがありました。コンサルタントは、自動化が自分たちの役割に何をもたらすのか不安を抱えていました。一方で、事業側の関心は効率の指標にあります。どちらも損なわずに両方に応えることが、デザインの課題でした。
AI倫理は、業務上の目標と並ぶ設計の前提として最初から扱いました。システムはコンサルタントを置き換えるものではなく支えるものであること。その違いが、プロダクトそのものから読み取れる必要がありました。
アプローチ

ディスカバリー
プロセスは、関係者と従業員へのインタビューから始めました。日々の責務はどのようなものか、どこに支援があれば最も価値があるか、という二つの問いを軸に構成しています。AIによる置き換えを話題の中心にせず、コンサルタントが自分の仕事のどこに価値を感じ、どこを単調で消耗すると感じているかを引き出すための構成です。
インタビューを通じて、四つのテーマが繰り返し現れました。あらゆる顧客対応の中心にナレッジがあること、研修時間が足りないこと、問題解決が中核的な能力であること、そして答えを探すために複数の基盤を行き来する負担です。
定義
インタビューの結果を四つの問題定義にまとめ、これをデザイン要件の土台にしました。
正しい情報を見つける:顧客が待っている間に、コンサルタントは正しい記事を即座に見つける必要がありました。遅く、当てにならない検索は、プレッシャーとミスを生みます。
検索体験の弱さ:既存のナレッジベース基盤には機械学習がなく、検索結果は予測しにくいものでした。コンサルタントは、該当する記事を探して結果ページを眺めることに時間をかけすぎていました。
内容の書き直し:記事を見つけた後も、コンサルタントはナレッジベースの文章をメッセージ向けの文章に手作業で書き直す必要がありました。この言い換えは単純ではなく、対応のたびに時間を要していました。
反復作業:書き直しの作業はすべての会話で発生し、1シフトに何十回にも及びました。ワークフローの中で最も量が多く、最も価値の低い作業です。

AI倫理フレームワーク
発想に入る前に、チームはAI倫理のフレームワークに取り組み、関係者とコンサルタントの相反する視点を検討しました。事業側の関心は、業務効率、未対応の問い合わせの削減、対応あたりのコストにありました。コンサルタント側の懸念は、より個人的なものでした。仕事を失う不安、プレッシャー下でのエンゲージメントの低下、そして「支援」が実際にどのような形になるのか見えないことです。
デザインのフレームワークは、その両方に応えるものにしました。成果を正しく測るKPIを定め、プロダクトの公開と並行して、キャリア開発の道筋と研修の実施を提言しました。ウィジェットの位置づけは、自動化の層ではなく、明確にアシスタントです。

発想とプロトタイプ
発想の段階では、三つの仮説を立てました。AIウィジェットが文脈に応じてナレッジベースの関連コンテンツを提示すること、言い回しの提案によって書き直しの負担を減らすこと、そしてコンサルタントが基盤を切り替えることなく既存のエージェント用ワークスペースに組み込めることです。
AIの提案が顧客とのメッセージスレッドに対してどのように現れるかを示す会話フローを作成しました。ワイヤーフレームは複数回の改訂を重ね、そのうえで高精細のプロトタイプに進みました。
プロトタイプへのリンク
テスト
ユーザーテストはCSUQ(Computer System Usability Questionnaire)を用いて実施し、インターフェースの品質、情報の品質、全体的な満足度、システムの有用性という四つの側面で測定しました。テストでは、定量的なユーザビリティのスコアと、コンサルタントの定性的な受け止めの両方を記録しています。特に、ディスカバリーで浮かび上がったAI倫理に関する懸念を重視しました。
分析設計とMVPのローンチ
ユーザーテストの後、デザインの範囲を分析の層まで広げました。初期導入の指標を事業側が追えるように、Power BIのダッシュボードのプロトタイプを開発し、コンサルタントがウィジェットをどのように使っているか、どこに課題が残っているかを運用チームが把握できるようにしました。
プロトタイプへのリンク

成果
ユーザーテストでは、基準となる性能と比べて業務効率が60%改善する見込みが示されました。Agent Assistウィジェットは、四つの問題定義のすべてに応えました。コンサルタントはエージェント用ワークスペースを離れずに関連コンテンツを引き出せ、AIが提案する言い回しが書き直しの負担を減らし、検索は結果ページを目で追う作業から、必要な情報が自動で届く仕組みに変わりました。
MVPは予定どおり納品し、継続的な改善のために、利用指標とCSUQを軸にした公開後のモニタリング計画を整えました。以降のリリースで効率をさらに高める機能の導入計画も策定しています。
数字以上に重要だったのは、コンサルタントが信頼でき、本当に役立つと感じられるAI支援を設計できると示せたことです。従業員の不安には、説明だけでなくデザインの判断で応えました。ディスカバリーで作成したAI倫理のフレームワークは、その後のプロダクトのロードマップにも活かされています。